愛と勇気とエトセトラB


































予想もしなかった唇の感触に、驚いて目を開けた。すると、あたしの顔をのぞきこんで薄く笑っている仁王の顔が目に映った。あたしはまだ思考が上手くまわらない。でも、その疑問をおそるおそる口に出してみる。







「・・・・・ねぇ、仁王。今のさ、」
「キスじゃよ」
「・・・・・指とかで?」
「いや。口と口でじゃ」







あたしの探り探りの言葉に、仁王はすらすらと答えていく。あたしの希望を見事に裏切りながら。
そんなまさかと思ったが、フェンスの周りの女子の悲鳴と真田を筆頭にしたテニス部員の硬直した表情があたしに事実を突きつけている。頭から背中がさぁっと冷たくなって、とんでもない出来事が起こってしまったと頭が処理するのに時間がかかった。







「・・・・幸村。」








さすがにこれは酷すぎると幸村の方を振り返ると、「僕じゃなくて仁王に言えば?」と今までで一番冷たい対応をされた。こちらの反応にも愕然としていると「ちゃんと仁王の方むきなよ」と追い打ちをかけられた。


幸村の迫力ある声に、また向き直って仁王の顔を見た。仁王はあいかわらず、嫌な笑いを浮かべている。






「これで、王子様とやらにも俺とお前がそういう中だってことは伝わったじゃろ」
「・・・そんなことのために、したの?」





まるで、面白い遊びでも見つけたようにあたしに向かって呟く仁王。
いくら何でも、これは冗談では済まされない。今までとは全く違った種類の仁王に対する怒りが溢れてきて、ぐっと手を握って仁王を睨んだ。けれど、そんなあたしの様子を見て、仁王はその緩んだ口元を引き締めて、妙に真面目な顔をしてため息をついた。









「俺がお前のこと好きってことは伝わってないようじゃの」


「・・・は?」






突然の仁王の言葉に、思わずまぬけな声を出したあたしを見て、仁王は「やっぱりな。」と呟く。そして「俺はのこと好きじゃったん、知らんかったろ。」と簡単な補足のように言った。その顔にはさっきの笑いが戻っていて、あたしの心にはまた新たな警戒心が芽生える。
あたしのこの癖は長いマネージャー生活の中で、仁王から身を守るために身についたものだ。







「やだ。仁王、あたしの嫌なこといっぱいするもん」
「やから、さっきもう嫌なことはせんって言ったじゃろ」
「信じない。」







だいたい、好きっているのがあんな簡単にするりと出てくるのは、からかわれているようにしか思えない。仁王が周りから詐欺師なんて呼ばれていることはよく知っている。日頃の行いも含めてそう口にすれば、仁王は「弱ったのう。」と頭をかいた。














-----------------------------10.03.11
試合前にちゅうしたら会場中に噂がまわるはず。
設定がむちゃむちゃなことに今気付いた。





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